その場はなんとか女将の千春のとりなしで治まりましたが、「翌日一緒に謝りに行きましょう」という彼女の言葉に素直に応じることができない。
あくまでも「僕は嘘をつく人間は嫌いです。人は嘘をついた瞬間に生きるプライドを失います。プライドを失った人間は信頼のおけない人間になります!」と仏頂面する桐野。それは航平への抗議でもありました。するとその様子を黙って見ていた吉田が突然「馬鹿者!!!何もわかっとらんでエラそうなこと言うな!!!」と大声で桐野を叱責します。
吉田は桐野に、航平が彼の失態を上に知られないようにするために一世一代の嘘をついていることを明かします。この時初めて桐野は、航平が自分のために身を挺して庇ってくれていた事実を知り大きな衝撃を受けるのでした。
千春からも「大沢さんはあなたを守るために嘘をついたのよ」と諭される桐野。自分の将来に傷をつけないようにするために航平が矢面に立っていたことを改めて知らされた桐野は、この時初めて、これまでの自分の言動や行動を反省したのかもしれません。言葉を失い唇をかみしめて俯くしかない姿がちょっと切なかったです。
ところが、旅館の状況は一向に好転しません。さらに利益を挙げなければ今度こそ本当に旅館・佐倉井が存続危機にさらされていると知った航平たちは、再び団体客を受け入れるべく動く決断をせざるを得なくなりました。成功させなければ、旅館もろとも自分たちもリストラされてしまうと危機感を募らせる3人。
そんなある日、千春が女将をやめると言い出しました。高杉常務と過去に色々とあったらしいことから、自分が辞めればすべて丸く収まるのではないかと思い詰めた様子。
すると、桐野は千春のもとへ行き「もしかして我々のために女将をやめると仰っているのでは?」と問いただします。常務に直談判して佐倉井をなんとかしてもらえたとしても、桐野達の運命が危機的状況なのは変わらない。それなら自分がすっぱり身を引いて旅館も航平たちも助けようとしているのでは…というのが桐野くんの見解でした。そしてそれは当たっていたのです…。桐野くんが人の気持ちがわかるようになった進歩は嬉しいけど。
「僕が言っても納得してもらえませんよね…」と悟った桐野は思い切ってキクさんに相談に行きます。
心なしか、桐野くんから相談を持ち掛けられたキクさんはちょっと嬉しそうに見えました。しかし、千春が女将を辞めてしまうかもしれないという話を聞くと一同顔面蒼白。急いで説得に向かうのでした。
ごたごたが続くなか、佐倉井に海外からVIP客が宿泊するという話が突然飛び込んでくる。高杉常務の知り合いらしく、いよいよ旅館存続危機が現実味を帯びてきたと感じた一同はなんとかおもてなしを成功させようと必死になります。
ところが、VIPでやって来ていたフレデリック夫妻がちょっとしたことで大喧嘩をしてしまう事件が発生。怒り狂った奥さんは一人で旅館を出ていってしまいました。おもてなしに失敗してしまったと思い込んだ一同は激しく落ち込み、桐野もいよいよ自分の首が危うくなったことを察して大きな不安に襲われてしまいます。佐倉井もとうとう閉館に追い込まれるのだと誰もが覚悟をしていました。
航平は旅館の不手際について高杉常務に謝りに本社へ行きますが、意外な事実を聞かされることに。
フレデリックの奥さんが怒り狂って一人で帰ろうとしたとき、旅館の玄関で靴磨きを黙々としていた桐野の姿を見てえらく感動したというのです。本来は商社マンの彼が「おもてなし」の精神で丁寧に一所懸命夫人の靴を磨いていた姿が彼女の心を打ったと。キクさんに言われて嫌々始めた靴磨きでしたが、最後の最後に大きな成果を出すことになったのです。
高杉常務も、実は旅館を潰すつもりは全くなくて…むしろ、潰そうとしていた社長たちを何とか説得して存続させようと動いていたことが判明。桐野の靴磨きの一件で機嫌を直した夫人の口添えなどもあり、フレデリックたちはたいそう満足したという。そんなわけで、佐倉井は存続することが許されすべてが丸く収まることになりました。桐野くん、グッジョブ!!
佐倉井が存続することが決まった報告を航平から聞いた一同は大喜び。さらに、桐野の本社復帰も決まったことが告げられます。しかし、最初はあんなに嫌がって旅館の仕事をしていた桐野くんでしたが、今ではやりがいも感じているし情も移っていたようで素直に喜ぶことができません。自分だけ抜けることへの罪悪感もあった様子…。
それでも、仲居さんたちは桐野くんが本社に戻れることを心から喜んでくれました。
キクさんからも「あなた、本社の社長になるんでしょう!頑張るのよ」と励まされこみ上げるものを抑えきれなくなった桐野くん。背中を押してくれる仲居さんや航平たちに目を潤ませながら「ありがとうございます!」と万感の想いを込めて頭を下げます。いつまでも頭を上げられないくらい感極まった桐野くんが泣けました。
桐野が佐倉井から旅立つ当日、キクさんは心を込めて彼の靴を磨いていました。
「靴はこうして磨くのよ」と優しく靴を差し出してくれたキクに、桐野は胸を熱くし改めて感謝の気持ちを伝えました。このシーンもとても感動的でした。
さらにキクさんは、最後に見送った時に初めて「桐野さん!絶対社長になってくださいね。負けちゃだめよ」と名前を呼んで励ますんですよね。これまでずっと「ボク」としか呼ばなかっただけに、この場面もとても感動しました。
多くの愛に包まれ、桐野くんは佐倉井から巣立っていきました。
本社に戻った桐野は生き生きと仕事をしている様子。そんなある日、佐倉井で運動会をやることになったという知らせが入り、本社の仲間たちにも参加してほしいと声をかけます。ところが、紗也や木村課長以外は乗り気ではない。特に松山は航平がパンフレットの件で嘘をつき通したことをやり玉に挙げて「あの人は信頼ができない人だ」と冷たく言い放つ。
その言葉に怒りの気持ちが抑えきれなくなった桐野は「あんた何にもわかってない!」と詰め寄ります。そして航平が嘘をつき通したのは、実は桐野のミスを庇うためだったことを必死に伝えるのでした。
「あの人は自分のためにこれっぽっちも嘘をつくような人じゃない。大沢さんそういう人なんだよ!あんたも人のために何かしてみたらどうなんだよ!人を蹴落とすだけが商社マンじゃないだろう!!」
あの桐野くんがこんな立派なことを言うようになったとは…!佐倉井での日々は確実に彼を成長させましたよね。さすがの松山さんも桐野の言葉に何も返すことができなくなりました。この時の桐野は本当にカッコよかった。
そしてたびたび彼から心が離れそうになっていた紗也も、この一件で改めて桐野を見直したようで二人の仲も丸く収まります。
そして運動会当日、松山たちも参加することになり彼らは改めて航平にこれまでの態度を詫びるのでした。桐野くんとの関係も改善したようで一緒に二人三脚競技に出ていたのが可愛かった。
紗也との仲も順調な桐野くん、運動会でのジャージ姿も可愛かった!
その後の顛末はというと、航平は旅館を立て直したことでニューヨークへの栄転が決まったもののそれを断り佐倉井に留まることになります。一時期は女将との仲を疑われ夫婦関係も危機的状況となりましたがそれも解決し、航平は千春と共に佐倉井で奮闘するのでした。
ここまで全12話をザっと振り返りましたが、これ以外にも田辺さん演じる桐野の見どころは非常に多かったです。全体的に出番も多く満遍なくエピソードに絡んでいた役だったので、ファンとしてはけっこう美味しい作品だったと思います。いつかもう一度再放送してほしいところです。
私が持っている『ガラスの仮面』以前の田辺さん出演ドラマ作品感想はここまで。次回からは再び『ガラスの仮面』以降の印象深かった作品についていくつか触れていきたいと思います。