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【過去ドラマ振り返り】水曜ドラマの花束『走れ!ノボセモン』~九州・博多~

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1998年~99年にかけては田辺誠一さんが出演したドラマが豊作時代を迎えていましたが、その中でも特に印象に残っているのが、NHKで放送された単発ドラマ『走れ!ノボセモン』です(ガラスの仮面は特別枠w)。

これまでの田辺誠一さん出演作品感想レポ

田辺誠一さん出演作品感想一覧
田辺誠一さん出演作品感想一覧
田辺誠一さんが出演した作品の感想

「水曜ドラマの花束」という枠での放送でしたが、全編福岡県の博多で撮影されているので現在でいうNHKの地方局制作のドラマという括りに入ると思います。演出は、朝ドラ『あまちゃん』など今では多くの良作を担当している井上剛さんが担当。たしかこの作品が2作目あたりの演出だったかと思います。

『ガラスの仮面・完結編』が放送される約2か月弱前というタイミングだったこともありますが、それ以上に田辺さんがついにNHKドラマの主演に選ばれたというニュースがとにかく嬉しくて、放送されるのを心待ちにしていたことを思い出します。
当時から私はどちらかというとNHKを見ることが多かったのでw、やはりそこに田辺さんが主演…ってなると本当に胸が熱くなりましたねぇ。

残念ながらビデオ化もディスク化もされていませんが、個人的にはとても思い入れの深い大好きな作品だったので少し振り返ってみたいと思います。

水曜ドラマの花束『走れ!ノボセモン』~九州・博多~

放送:1999年08月04日(水)22:00~22:45 NHK福岡放送局

脚本:綾瀬麦彦

演出:井上剛

主演:田辺誠一(井野一判)

その他主な出演者:

牧瀬里穂、根岸季衣、塩見三省、光石研、津田寛治、深見亮介、でんでん、小松政夫

あらすじ

会社都合で駅伝部が廃部となりリストラされてしまった井野一判。まだまだやれるという想いから必死に他の強豪チームへの移籍先を探し自分を売り込みに行きますが、年齢的にピークを越えているという理由で取り合ってもらえない。かつての仲間や後輩たちはその先へと駒を進めるなか、駅伝部のエースだったことへのプライドからか強豪チームへの移籍に拘ったことから行き場を失い苦悩する。

そのさなか、妻のケイコから妊娠していることを知らされますが、自らの進路が定まらない一判は素直に喜ぶことができない。改めて強豪チームの監督から拒絶され激しく落ち込む一判にケイコは優しく寄り添う。彼女との時間を過ごすうちに彼の心の中で何かが変わっていく…。

このドラマには、若き日の光石研さん津田寛治さんが出演されています。

光石さんはかつての駅伝部チームメイトで友人・山ちゃん、津田さんは強豪チームに移籍したかつての駅伝部後輩・小杉を演じました。今ではすっかりベテラン俳優となったお二人ですが、この頃はまだまだ勢いのある若手役者といった雰囲気。そんな姿も見れる貴重な作品だと思います。

また、一判の実家がうどん屋さんで、ケイコ役の牧瀬里穂さんがいつも美味しそうにうどんをすすっているシーンが出てきて思わず食べに行きたくなってしまいました(笑)。博多はうどんも有名ですからね。

また、一判の両親役の小松政夫さん根岸芽衣さんの豪快ながらも温かい夫婦がとても印象的でした。小松さんはいつも祭りのことで頭がいっぱいのお父さん、根岸さんは”ノボセモン”な夫と息子を生温く見守りつつシャンとした考えを持ってるお母さんを演じていてお似合いの夫婦でした。

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田辺誠一さんは廃部になった駅伝部のエースだった井野一判役。この頃としては珍しい「等身大の青年」役でした。それまでは屈折したり、どこか王子キャラだったり…みたいな役が多かったのでとても新鮮に感じたことを思い出します。

当時のステラでも表紙になったりとクローズアップして特集されていました。

この雑誌のなかで田辺さんは一判役に抜擢された感想を「驚きであると同時にとても嬉しいことだった」と語っています。それだけ当時は”普通の青年”を演じる機会が少なかったんですよねw。それだけに最初は「僕がやってもいいのかな」と迷ったことも告白しています。
また、一判との共通点としては「ひたすら走り続けてきた人生を、ふと立ち止まってみるところ」が重なると話しています。30代に突入してから少し周りを見る余裕を持つようにしたとどこかでも語ってましたから、「台本を読んでウルウルすることも多かった」という言葉はとても印象的です。

ちなみに「博多に生まれ育っていたら東京には出てこなかったと思う」とコメントしてしまうほど博多の町に愛着を抱いたという田辺さん。幼い頃におばあ様と過ごした山口県と隣同士の県でもありますから、シンパシーを感じることも多かったのかもしれません。

あと、待ち時間は全く苦にならなかったとサラっと言ってるところが田辺さんらしいかなと思いました。8時間とかあっても自分の時間をちゃんと確保して過ごしてたらしいので全然気にならなかったようです。

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以下、田辺さん演じる一判のシーンで印象的だったところをいくつか。ちなみに「のぼせもん」とは、九州・博多で使われる方言で”一つの事に夢中になる人”のことを言うのだそうです。このドラマだと、一判は『走る』ということ、父親は『祭り』ということになると思います。

駅伝部廃部が決まりリストラされてしまった一判は居たたまれずに家を飛び出して走りに出てしまうのですが、走りながら彼が呆然としながら心の中でつぶやくセリフが印象的でした。

「毎日が昨日ってやつの繰り返しだと思ってた。ずっと続いていくんだと思ってた。明日、今日と違う日になるなんて、そんなの考えたこともなかった…」

このシーンでは一判の絶望感を表現するセリフとして出てきますが、クライマックスでは全く別の意味で同じ言葉が登場します。そのあたりの構成が巧いなと思いました。

まだまだ自分は現役でも十分やっていけると確信していた一判は、かつての後輩・小杉が所属している駅伝の強豪チームに強引に自分を売り込みに行きます。しかし、塩見三省さん演じる監督から「色んなところから誘いあるだろう?選ぶの困ってるんじゃないか?うちも予算削られることになって大変なんだ」と暗に断られてしまったことで大きく落ち込んでしまいます。

求められていないと悟ってしまった一判が凹みながら走っているところに、妻のケイコが運転していた幼稚園の送迎バスが通りかかり彼を乗せることに。乗せてもらった一判が幼稚園生たちに対して「駆けっこ好き?お兄ちゃん、足早いよ」とドヤ顔するシーンがあるんですが、田辺さんの子供に語り掛けるときの博多弁がめっちゃ可愛くて萌えますw。
しかし、ケイコが妊娠したことを告げようとしても自分のことで精いっぱいな一判は彼女に愛想つかされて降ろされてしまう。

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モヤモヤしたまま自転車に乗り換え、今度は光石さん演じるかつての同僚で友人の”山ちゃん”を呼び出して「仕事楽しい?」とか他愛もないことを聞きまくる一判。山ちゃんは駅伝部が廃部になってから工場へと配置転換されてしまいましたが、家族のためには会社を辞めるわけにもいかずそこにしがみつくしかない事情を抱えていました。しかし、一判はそんな山ちゃんに苛立ちを感じてしまうのです。

そして、山ちゃんは一判に「まだあの時の事、根に持っとうとか?」と尋ねる。彼は一判に対して駅伝時代に起こったある出来事の負い目を感じていたのです。「悪かった…」と謝る山ちゃんに対し、複雑な表情で「そんなんじゃねぇよ…」と答える一判。
最後の駅伝レースで、山ちゃんは一判にタスキを渡す寸前で足を痛めてしまいリタイアとなってしまった。エースとしてトップを駆け抜ける自信があった一判はただその光景を呆然と見つめるしかなかったのです。この時のことを、山ちゃんはずっと気にしているようでした…。

その夜、スネてしまった一判はケイコの運転している幼稚園バスの運転席に乗り込み籠城w。夕飯の席にも行こうとせずに閉じこもる息子を、根岸さん演じる母はただ黙って見守るしかありませんでした。

数日後、父は独断で立ち退きに同意してしまい、実家のうどん屋も閉店が決まる。いざという時はうどん屋を継ぐという頭もどこかにあった一判は退路を断たれた感じになってしまい、ますます迷宮入りすることに。
ケイコと次に新しく住むことになる海辺のマンションを見に行きますが、全く釈然としない。今後どうするのか彼女に尋ねられた一判は、「俺は、走る…」とだけ言い残し一人でどこかへ走り去ってしまいます。ドヤ顔で練習のために走りこんでいた津田さん演じる後輩・小杉たちを抜き去っていく一判がなんだか可愛らしい。

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一判はそのあとも小杉に付きまとっていたらしくw、ロッカールームにまで押しかけています。何とか自分をアピールしたくて監督に取り合ってもらおうとしますが…小杉は不機嫌そうに「監督も言ってました…困るんだよなって。カズさんもう30じゃないですか!ピークなんですよ。そんな選手、企業が雇うわけないじゃないですか」と言い放つ。
それに対して動揺しながらも「まだ早ぇんだよ!」と強がる一判でしたが、「会社は伸びてく若い奴に金出すんですよ」とさらにダメ押されて激しいショックを受けてしまう。

しかし、7区のアンカーを任されたと少し申し訳なさそうに頭を下げる小杉に対して、一判は自分の動揺を悟られないように無理して笑顔を作りながら「冗談だよ」と笑い「今晩うちのうどんを食べに来ないか」と誘いました。

ところが、心の中に抱えたわだかまりは解消せず、モヤモヤしたまま酔いが回ってしまった一判は小杉に思い切り嫌味を言いながら頭からビールをぶっかけるという暴挙に走ってしまう。呆然とそれを受けるしかない小杉と、必死に一判を止めようとする山ちゃんで食事の席は大変なことに。

そして一判の苛立ちの矛先はついに山ちゃんのほうにまで向けられてしまい…「あんたは最後の大会で棄権しなきゃ、俺にタスキを渡しときゃ…!人生返せ、馬鹿野郎!!」と本音をぶちまける。さらには「廃部になった後人事に取り入ってただろう!?最後のレース、わざと負けたんじゃないか!?」とまで罵ってしまい修羅場に発展。
大暴れする一判に堪忍袋の緒が切れた母は怒りに任せて家を出ていき、ケイコも「カズちゃん、あんた、鏡でよう自分の顔見たらいいわ。ごっつい嫌な顔してるで」と言い残しその後を追う。どうしたらいいのかわからずに呆然とその場に佇むしかない迷える一判の姿が切ないです。

後日、一判はもう一度塩見さん演じる監督に自分を売り込みに行く。しかし、「君の寿命はあとワンシーズン、半年しか持たない。そんな選手を雇うことはできない」とハッキリと断られてしまう。それでもあきらめきれない一判は「半年だっていい…!悔いなく走りたいんです!!」と頭を下げて必死に直談判。

困り果てた監督は「勝負しますか、あいつと」と小杉との勝負を申し出る。その言葉に顔を輝かせる一判でしたが…「秋の駅伝で」と付け加えられると一気に絶望の淵へと追いやられてしまう。駅伝は一人では走れない。つまりは、やはり結局は一判は雇えないという最後通告だったわけです。

逆上した一判は「この野郎!!!」と監督に掴みかかってしまう。その態度に「君の、その頭にすぐ血が上る性格!!それも長距離には向かない!!いい機会だと思ったほうがいい、早めにこうなってよかった。いつか、みんなそうなる…」と諭される。

一判は返す言葉を失い佇むしかありませんでした。

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キッパリと「選手生命は持ってあと半年、君は長距離には向かない」と言われてしまった一判はすっかり自信を失ってしまいます。そんな彼に車で通りかかったケイコは声をかけ、一緒に海へ向かいました。

「疲れた…。何頑張ってきたっちゃやろ…。あれ…、なんでかな…」

妻の前で初めて弱音を吐いた一判は、やるせない気持ちから思わず涙ぐんでしまいます。この涙ぐんだ時の表情が、めちゃめちゃキュンとくるんですよねぇ。
そんな彼にケイコは「泣いたらええやん!」と励まし、カッコ悪いから見るなと強がろうとして背けようとした顔を自分のほうに向ける。「いっつもカッコええ!」と懸命に励ますケイコの明るさは救いになります。

そんな彼女の愛情に安心したかのように、子供のように「止まるとが、怖い…」と本音を語りながら彼女のお腹に自分の顔を当ててみる。初めて感じる、自分の子供の存在に落ち着きを取り戻した一判は、初めてこの時ケイコに「ありがとう」と感謝の言葉を告げます。

安心しきったようにケイコに身を任せる一判の姿がとても愛しく見えた印象的なシーンでした。

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その後、心のもやもやが吹っ切れた一判は求人誌を広げ、職探しに前向きになります。新しいスタートラインに立つために、彼はある決意をします。それは…

走ること。

小杉も走る福岡駅伝が行われる日、選手を応援する沿道の後ろには並走して走る一判の姿がありました。駅伝と決別するために、自分が納得するために、一判はただただ沿道を走り抜けます。そんな彼の姿を、友人の山ちゃん、そして妻のケイコは背中を押すように声援を送ります。

「毎日が昨日ってやつの繰り返しだと思ってた。ずっと続いていくんだと思ってた。明日、今日と違う日になるなんて、そんなの考えたこともなかった…」

選手が走り終わり応援する人もいなくなった道をひた走る一判の表情は清々しく爽やかです。オープニングの時と同じ言葉を心の中でつぶやいていますが、あの時とは違い、声の調子は明るく、未来へと向かおうとする前向きさが滲んでいました。

ラストシーン、海を見つめながら寄り添う一判とケイコのシーンがとても印象的です。

「あほ・・・ノボセモン」

そう言いながら一判の方に寄り掛かるケイコの後ろ姿はとても幸せそうに見えました。

田辺さん自身も、NHKドラマ初主演となったこの作品にはかなり深い思い入れを抱いているようで、アーカイブページでその想いを語っています。是非読んでみてください。

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